
がんの治療と言えば、手術、放射線治療、抗がん剤治療の3つがメインとされていました。初期であれば手術で根治、進行していれば手術と放射線や抗がん剤治療の併用、手術が不可能であれば放射線や抗がん剤で進行を遅くする、というのが多くのがんに適用されてきた治療法です。
しかし、この常識を覆す治療法の治験を2014年9月10日、神奈川県立がんセンターが開始したのです。それが「ペプチドワクチン」を活用したワクチン療法です。がんにワクチンと聞くと違和感がありますが、実は国内のみならず海外からも注目されている治療法なのです。早速ペプチドワクチンががんに効く仕組みについてご紹介します。
ワクチン療法とは?
ペプチドワクチン療法の説明の前にワクチン療法についてご説明します。ワクチン療法とは、がん細胞を攻撃することができる免疫細胞を活性化し、がんを攻撃してもらう治療法です。具体的には、まず体内の免疫細胞を取り出して増殖し、体内に戻すと言うもの。しかし丸山ワクチンや蓮見ワクチンのような従来のワクチン療法は、がん細胞だけではなく他の異物を攻撃する様々な免疫細胞が増殖もしくは活性化しますので、がん治療に劇的な効果を示すことはありませんでした。
ペプチドワクチン療法と従来のワクチン療法の違い
ペプチドワクチン療法と従来のワクチン療法、大きく違うのがペプチドワクチンは「がん細胞のみを攻撃する免疫細胞を増殖させることができること」です。従来のワクチン療法であれば関係のない免疫細胞が活性化されていたのに対し、ペプチドワクチンは、がん細胞を攻撃するキラーT細胞という免疫細胞を増殖&活性化させます。
その仕組みは、意外と簡単です。がん細胞は、その表面に特別なたんぱく質を合成します。その一つがペプチドです。だからペプチドを人口的に体内に注入することにより、キラーT細胞たちに「がん細胞が沢山現れた!早くやっつけなければ」と錯覚させるのです。そうすると、実際にキラーT細胞が増殖し、本物のがん細胞を攻撃し始めます。まだ治験段階ですが、ペプチドワクチン療法を行ったことで、生存期間が長くなった、という症例が数多く報告されています。しかし、残念なことにまだ治療法として承認されていないので、各研究施設や大学病院の治験に参加することでしか、ペプチドワクチン療法を受けることはできません。
ペプチドワクチン療法のメリットとは?
ペプチドワクチン療法の大きなメリットは副作用の少なさです。現在、福島医科大学で行われている臨床試験によると、ワクチンを接種した部分の発赤、かゆみ、そして発熱やほてり不快感、程度と、従来の抗がん剤治療と比べると格段に少ない副作用なのです。なぜならば免疫細胞は人間の体内にもともと存在している細胞なのでそれ自体はまったく無害だからです。
ペプチドは化学合成物質ですので、それを接種した時の軽い副作用にとどまっています。副作用が少ない、ということは入院しなくても通院や在宅で治療を受けることができると言うことです。がん治療のために退職を余儀なくされたり、家事や育児に手が回らなくなると言った生活の質の低下を防ぐことができます。また、免疫細胞を活性化させる治療ですので一か所のがんだけではなく、複数に転移したがんにも効果があると言われています。実際に根治不能な進行度の患者さんの生存期間が他の治療法に比べて長くなったと言う治験の結果が数多く報告されているのです。
神奈川県立がんセンターのペプチドワクチン療法の治験とは?
標題の神奈川県立がんセンターのペプチドワクチン療法の治験についてご紹介します。募集期間は2014年9月11日~2015年9月の予定となっています。現在の問い合わせ状況や治験を受けている人数がこちら。
治験者の募集を開始した2014年9月11日~2014年10月30日までの期間
・問い合わせ、紹介者数296人
・来院者数 31人
・投与者数 6人
(神奈川県立がんセンター免疫療法科ホームページより)
問い合わせの数に対して実際にペプチドワクチンを投与されている人の数が少ない、という印象を受けますね。その理由は、治験を受けることができる条件にあります。
神奈川県立がんセンターでペプチドワクチンの治験を受けることができる条件
・すい臓がんと診断されていること
・標準的な治療法(ジェムザールやTS-1)の効果がなかったこと
・20歳以上85歳以下であること
・白血球の型が一定の条件を満たしていること
これ以外にも細かい条件が定められていますので、希望する人すべてが治験を受けることができる訳ではないようです。治験を受けたいと思ったらホームページで詳しい条件を確認の上、問い合わせをしてみましょう。
まとめ
ペプチドワクチン療法は、副作用が少ない上にこれまで治療が難しかった転移が進んでいるがんの増殖抑制効果が期待できます。現段階では治験や臨床試験という形でしか治療を受けることができませんが治験が進めば治療法として承認され、誰しもが受けることができるがん治療の第4の選択肢となり得る治療法です。