
バイオバンク、この単語を初めて耳にするという人も多いのではないでしょうか?
バイオバンクとは、人間の細胞や血液、臓器の一部などを集約し、新しい薬の開発や病気の解明などに役立てる仕組みを言います。一見すると、医学の進歩に大きく貢献しそうなシステムですが、問題がない訳ではありません。そこで、バイオバンク概要と問題点と将来的な展望について分かりやすくご紹介します。
バイオバンクとは?
バイオバンクとは、病院や研究施設が患者さんの血液や臓器の一部、細胞などを集約し研究に役立てる仕組みです。提供される血液や臓器の一部などは、検査や手術の際に採取されたものです。血液や臓器の一部だけではなく、それに付随した診療の記録や診療後の経過も提供されます。これらの膨大なデータを集積して、新しい薬を開発、病気の解明を研究するのです。例えば、話題のオーダーメイド医療にもバイオバンクは大きく貢献しています。ウィルス性の病気、C型肝炎を例に取ってみましょう。
肝炎の抗ウィルス薬は数多く開発されてきましたが、すべての薬がすべての遺伝子型の肝炎に効く訳ではありません。この薬は、Aタイプのウィルスには効果があるけど、Bタイプには効果がない、と言う風に薬によって劇的に効果がある場合と、全く効果がない場合があるのです。これも、バイオバンクを元にした地道な研究により明らかになってきました。以前であれば、「この薬を試してみよう、だめだったらこの薬」という治療方法であったのが、今では「まずはあなたの肝炎ウィルスの遺伝子型を調べてみて適合する治療薬を試しましょう」と言う風に、患者さんの体や精神的な負担が少ない効率のよい治療方法を選択することができるようになったのです。
このようにバイオバンクは医学の発達にとってなくてはならないものなのです。
バイオバンクの問題点
医学の発展に欠かせないバイオバンクですが、問題点、課題はあります。バイオバンクの問題点は個人情報としての取り扱いと、患者が拒否しづらい現状、そして結果のフィードバックです。
バイオバンク自体は献血センターや臓器バンクのように全国的に組織化している訳ではなく、各医療機関や研究機関ごとに運用されている状態です。そのため運用方法や究極の個人情報とも言える人体の組織の取り扱いについても様々で、議論の余地があると言われています。
バイオバンクに集約される検体(血液や臓器など)は個人の遺伝情報を含む、大変機密の性の高い個人情報です。それをどう管理するのかはまだ各施設に任せられている状態で、法的な整備はまだなされていません。また、バイオバンクに集約されている遺伝子情報は膨大で、それらを各個人と結び付けた研究がおこなわれません。究極の個人情報だから、個人を特定できないように暗号化されているのです。
従来のバイオバンクでは、細胞や血液を提供してもそれが何に使われて、どのような結果が出たのか、が個人に還元されることがなく全く「患者にとって利益がない」という状態でした。にもかかわらず「医学の発展のために」という大義名分のもと提供を拒否しづらい状況に合ったのです。高度な個人情報を提供するのに、拒否しづらく、また提供後に何が行われているのか分からない、というのが問題点と言えます。
バイオバンクの今後
こういったバイオバンクの問題点を解消すべく、動き出している研究施設や病院は少なくありません。個人情報の取り扱いについては、各施設ごとに倫理委員会が設けられ、厳重に管理されています。個人が特定できないように氏名や生年月日と言う情報は暗号化されており外部だけではなく内部の人間も分からなくなっています。また、患者さんが拒否しやすい仕組みづくりも進んでいます。
来年4月に厚生労働省と文部科学省がバイオバンクに関する規定を設け、「患者さんが拒否をする機会を保障する」ことが定められる予定です。さらに、提供された血液や臓器の使い道を公開するシステムを構築している施設も出てきました。例えば独立行政法人国立がん研究センターではバイオバンクのサイトに「実績と成果」という項目を作り誰でも研究結果を閲覧することができるようになっています。
国立循環器病研究センターのバイオバンクでも同様に研究実績を閲覧できるページを作っている最中です。個人を特定する形で個別の解析情報や研究結果を知ることはできませんが、自分の提供した血液や臓器が何に使われたか、はある程度知ることができるようになってきているのです。
まとめ
バイオバンクは、これまでもそしてこれからも医学の発展にはなくてはならない存在ですが、いまだに多くの問題点を抱えています。個人情報の問題、患者が拒否する権利、研究結果の公開、など課題は少なくはありません。しかし、ようやくバイオバンクのはらむ問題点を解決し、オープンなものに生まれ変わろうとしています。
各省庁により規定も整備され、より個人が尊重された形で検体を提供することができるようになります。今後、病院で治療を受ける時、検査を受ける時にバイオバンクへの提供を依頼されるという経験が増えてくるかもしれません。その時のために、一度バイオバンクでの研究結果を公開しているWEBページを確認してみるとよいでしょう。