
均てん化施策の現状と課題
そしてがんの治療成績は、地域や医療機関により大きな格差があります。この原因を解明し是正するために平成16年厚生労働省にがん医療水準均てん化の推進に関する検討会が設置され、均てん化に向けた取り組みが始まりました。均てん化は、全国どこでも癌の標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図るものです。均てん化の課題としては化学療法、放射線療法の専門医不足、検診受診率が低いこと、撮影技師・読影医の不足や実施体制の不十分さ、がん専門医療機関が地域ごとに計画的に配置されていない、病院間の役割分担や連携がない、がん登録の取り組みが進んでいない、一般国民への情報提供が不十分などの点が指摘されています。
緩和ケアの現状と課題
日本では本格的に緩和ケアがスタートしたのは、平成2年厚生省がホスピス・緩和ケアを医療保険の診療項目とし、緩和ケア病棟入院料という診療報酬項目を新設したことに始まります。しかし緩和ケア体制を整備するための施策が導入されてきているものの、緩和ケアの普及は遅れています。現状がんによる痛みを緩和するための医療用麻薬の単位人口当たりの消費量は欧米諸国の数分の一にとどまります。末期の入院患者で痛みが十分に取り除かれているのは大学病院では4割程度、がんセンターなどでは6~7割程度となっており、十分な体制が整っているとはいいがたい現状です。このような低い実施率の原因として次のような問題があります。一つ目は麻薬に対する抵抗感です。モルヒネなどの注射は副作用が危険は少ないと言われているものの、いまだ中毒や依存症などへの不安から患者、医療従事者双方の間に抵抗感が根強く残っています。二つ目は施設・専門医の不足が挙げられます。平成 16 年度に全国の緩和ケア病棟に入院した人はがん死亡者の 6%程度でした。さらに平成19年緩和ケア病棟の届け出を行った施設は171 施設3,295 床となっています。これまで日本のがん治療といえば外科治療が中心であったため、延命や症症状緩和を目指す進行がんの診療を専門とする医師や医療機関はまだそれほど多くありません。三つ目は医療従事者への知識の普及です。医療従事者の間での緩和ケアの知識の普及も十分ではないこと指摘されています。
がん登録の現状と課題
地域がん登録は、国や都道府県などの特定の人口集団内のがん患者全員について、がんと診断されたときから治癒または死亡に至る全経過の情報を集めて保管、整理、解析する仕組みです。がん登録の現状としては平成 19 年 ではがん登録を実施しているのは 35 道府県 1 市となっています。医療機関には地域がん登録へ報告する法的義務はなく、当該施設でのがんの診断・治療・予後に関する情報の院内がん登録も、医療機関や医師の自主性に任せられているのが現状です。がん登録の課題としては、次のような点があります。地域がん登録は、がん登録自体を実施していない地域・医療機関があること、データが標準化されていないこと、個人情報保護との関係などで登録や管理が難しいことなどがあります。そのためがん登録事業の法制化を求める意見もあります。しかしがん登録を法制度する場合、本人の同意を必要とするか、また不要の場合は本人への説明の有無や方法などがあるかや、医療機関に協力を義務づけるかや登録にかかる人件費等の問題などの問題もあります。そして登録に対する患者や家族の不安への対応や、本人の情報を実名登録するのか匿名化するのかなどの点についても議論しなければならないと指摘されています。しかし多くの他の諸外国では多くの国や地域で制度化されているので、今後日本でも検討の余地があるとされています。