
癌の早期発見、治療の進歩は著しい
日本人の2人に1人が癌にかかり、3人に1人が癌で亡くなってしまう時代と言われていますが、一方で近ごろの検診や人間ドックの普及により、癌が昔よりも早い段階で見つかるようになってきたのはとても喜ばしいことです。
しかし、胃カメラや大腸カメラなど、苦痛をともなう検査も多いのが実際のところです。検査に行くのがおっくうになりますよね?できるだけ楽に済ませてくれるクリニックを探したくなります。仕事も休まなければいけません、食事の制限も出てきます。また、膵臓癌や肝臓癌など、検査では見つかりづらく、症状にも出にくい癌は、進行してから見つかってしまうことも少なくありません。
それに、見つかった時点で転移を起こしていると、手術ができなかったり、治癒が望みにくくなってしまいます。検診や人間ドックを毎年受けていたのに進行してから癌が見つかってしまった、残念ながらそんな話もたまに耳にします。癌があるのか無いのかを、簡単に、確実に診断してくれる方法はないものでしょうか?
簡単に癌かどうか分かってしまう、腫瘍マーカー
ここで注目されるのが、血液から採取される腫瘍マーカーというものです。腫瘍マーカーには様々なものがありますが、特に最近注目を集めているのが、血液中のマイクロRNAという小さな分子です。マイクロRNAは、20個前後の少数の塩基からなる構造物で、体の中の様々なメカニズムに関与していることがわかっています。この中に、癌の組織から血液中に流れ出てくるものがあり、健常な人と癌の患者さんとで比較すると、癌の患者さんの血液中では爆発的に上昇しているものが多く見つかっています。
この癌から流れ出たマイクロRNAのすごいところは、健常な人と癌の患者さんとをキレイに二つに区別してくれることです。これまでの腫瘍マーカーは、健常な人でも異常値が出てしまったり、癌の患者さんでも正常値が出てしまったりと、それだけで診断できるほどの有用性は期待できませんでした。あくまでも参考程度にしか使われていなかったのです。しかしこのマイクロRNAは、これまで多くの報告において、それだけで健常な人と癌の患者さん(なんと早期癌であっても!)とをかなりの確率で判別できることが証明されています。
これをさらに応用すると、癌が見つかった時に、ほかの臓器に転移があるのか無いのかを判別したり、治療していったん癌が治った患者さんの再発のチェックに使用したり、抗がん剤の効く患者さん・効かない患者さんやどういう抗がん剤が効くのかの判断などにも有用と言われています。今後の癌領域の診断・治療に大きく関わってくるのは間違いありません。
それでは実際に、いつから、どうやって使われていくのでしょうか?
マイクロRNAの活用と可能性
実際は、色々な種類の癌それぞれに特有のマイクロRNAもあれば、多くの癌で同じように増えてくるマイクロRNAもあります。まず、現在までに有用と報告されている、いくつかのマイクロRNAのチャンピオンたちを選別します。これらの量を同時に測定し、血液1滴から10種類以上の癌を早期診断できる技術を、臨床応用させる試みがすでに行われております。国立がん研究センター研究所、分子標的研究グループの発表によると、2018年度末までに開発することを目指すとされています。
一方でこのマイクロRNAですが、体内で何のために存在しているのか、なぜ癌から流れ出てくるのか、実はまだほとんどわかっていません。このマイクロRNAが体内の他の場所まで流れ着いて、そこでまた何らかの仕事をしているのではないか、という説があります。生物の体内の仕組みは、非常にリーズナブルにできています。この爆発的に増加するマイクロRNAの現象が何の意味もなく起きていることとは考えづらいですよね?おそらく癌の増大や転移、進行に関わっているのではないかと世界中で研究が進められています。
そういった研究の中で、逆にこのマイクロRNAと似たものを人工的に作成し、これを細胞やマウスに注入すると、様々な働きをすることがわかってきました。診断だけではなく治療にも利用しちゃおう!ということですね。これはまだまだ人体に応用できる段階ではないので、今後の見通しはわかりません。抗がん剤治療の開発などにおいて、とても期待されている分野の一つです。
まずは検診から
検診や人間ドックで実施するたった1回の採血だけで、体の中に癌があるのか無いのかが判別できる日はそう遠くなさそうです。実は癌以外の様々な病気においても、診断に生かせるのではないかと言われています。必要がないのにつらい検査をすることもなく、マイクロRNAの異常が見つかった方はCTを取りましょう、胃カメラを飲みましょう、ということになるかもしれません。必要な人が、必要なだけ検査を受けることになりますね?受ける人にも優しい、医療経済にも優しい、理想的な検査法と言えるのではないでしょうか。